水虫、たむしの疫学から原因、治療法や対処法について分かりやすく医学薬学の観点からご紹介いたします。
さらに、自己経験による体験談を交えて水虫、たむし(以下「白癬(はくせん)」)に関してご紹介いたします。
疫学について
水虫、たむしを総称して、医学用語では「白癬」と表現されます。いわゆる水虫といわれるのは「足白癬(あしはくせん)」、たむしといわれるのは「体部白癬(たいぶはくせん)」となります。
梅雨の時期(5月以降)におきましては、足白癬が増え始めます。こちらは冬に季節が移るにつれて、減少いたします。足白癬の調査を7月に行うと、日本人の4人に1人が足白癬に罹患するという報告もあります。
一方、爪白癬(爪水虫)という爪にできる白癬もあります。こちらは季節によらず発症しうりますので、日本においては1000万人以上の爪白癬患者がいるということになります。また、男女比で言いますと、男性の罹患率が女性より高いという報告があります。
足白癬、体部白癬ともに、年齢を重ねるごとに罹患率が増えるという報告もあり、特に爪白癬に関しては60歳以上の4割の方が罹患しているというデータもあります。
水虫(足白癬)に関しては、実際は高齢者に限らず若年者でも発症しうるので、注意が必要ですね。
水虫・たむし(白癬)とは
水虫(白癬)とは、皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)により生じる皮膚感染症の一つです。つまり、引き起こすのはウイルスでも細菌でもなく、白癬菌と呼ばれる真菌なのです。真菌とはいわゆるカビのことです。
白癬菌は、ケラチンという蛋白質を栄養として生殖しているカビになります。
ケラチンが多く存在している場所は、皮膚の表面を覆う角質になります。角質は、垢となって生まれ変わっている表皮です。ですので、白癬の好発部位は皮膚の表面が主となります。なお、粘膜にはケラチンが多くありませんので、口腔内に白癬が発症することはありません。
水虫の発現部位は、足白癬との名の通り、足の裏、足の指の間になります。
たむし(体部白癬)に関しては、顔面、体幹、四肢の皮膚に生じる白癬菌感染症です。首部分、つまりうなじの部分に発現することもあり、広範囲に及ぶ場合もあります。
そして角層が変化したものが、爪や毛となりますので、爪や毛に白癬菌が感染することもあります。
爪に感染した白癬は、「爪白癬」となります。
一概に「白癬」といっても様々あります。以上にお示しした以外の白癬もあります。無症状の場合はどうしても気づきにくいことも特徴です。
たむし(体部白癬)が背中に発症した場合、症状がなければ私であればやはり他人に指摘されない限り、自分では気づかないと思います。
水虫・たむしの感染の原因
白癬感染症の原因としては、白癬菌と接触の機会があり、なおかつその菌が長時間皮膚にとどまっていることによるものです。原因菌は一つではなく、多くの菌種が存在します。
通常であれば、白癬菌は症状として表れません。しかし、梅雨のシーズンにおいては特に、高温多湿の環境下におかれると、菌は増殖しはじめ、水泡ができたりかゆみが出てきたりの症状として顕在します。
水虫(足白癬)の主な原因ですが、梅雨のシーズンではとりわけ、白癬菌の保有者が、家庭内(布団やじゅうたんなど)、あるいは家庭外(公共施設のスリッパや温泉施設)などの環境において白癬菌をばらまき、非保菌者に感染させてしまうという経路が最も多くなっております。
たむし(体部白癬)の主な原因ですが、水虫と同じ菌が原因であるため、あなたに水虫があると、そこから体部に広がって感染することもあれば、ご家族に水虫があると家庭内感染することもあり得ます。また、白癬菌に感染している犬や猫との接触により人間に感染するという経路もあります。
私も水虫(足白癬)の保菌者で、毎年6月ごろから症状として現れます。いくら考えても、感染経路は不明です。目に見えないがゆえに、いつどこで感染してもおかしくないのです。
自己判断の危険性
実際、ネットなどで検索すると、水虫(白癬)セルフチェックが可能にはなっております。これはこれで、一つのご参考になるかと思います。
しかしながら、私の経験では、数年間自己判断で白癬だろう、と決めつけて、市販の治療薬で対応しておりました。確かに、効果はありました。しかし、毎年梅雨の時期に同じ白癬の症状が繰り返され、「白癬菌まだいたの?」といった時期が数年続いておりました。
毎年こんな不愉快な思いをするのは嫌だという感情と、クリニックに「白癬っぽいのですが、診てもらえますか?」と受診するのがなんとなく恥ずかしくて数年自己判断のもと自分で勝手に「白癬(水虫)」と決めつけて、スプレー式の市販薬で対症療法を行っておりました。前述したように、一定の効果はありました。
しかし、そもそもドラッグストアで買う市販の水虫用の薬剤は、一般的に高価です。
私が最も言いたいのは、素人判断をしない、ということが重要だということです。なぜなら、素人判断で、仮にあなたが白癬だったとしましょう。市販薬を用いても、割と早い段階で、「かゆみがなくなった」「水泡が消失した」「痛かったのが痛くなくなった」「ぐじゅぐじゅしていた見た目が改善したように見えた」といった効果の現れる方もおられるのです。一方で、「昨日塗布したのに治っている気がしない」という方も一定数はおられるでしょう。
そこで一番やってはいけないことは、「勝手に治療をやめる」ということなのです。
私がしていたのもまさにこれでした。症状が治まったら治療をやめていたのです。
自分でそれらしく診断し、それらしくお薬を噴霧あるいは塗布して、自分の判断で勝手に治ったと思い、中断する。これこそが、再発の原因となるのです。
私の友人夫婦の場合で言いますと、30代のご主人が水虫を持っていて、その方は毎年放置していました。今年の6月に、その奥様から「水虫になったかも・・・」と相談を受けました。私は医師ではありませんので、このご夫婦には医療機関への受診をし、的確な診断と投薬を受けることを勧めました。この場合、最も考えられる感染経路は家庭内感染でしょう。ただ、細かい生活については分かりかねますので、実際はどこで感染したのかはわからないですよね。
自己判断、自己治療はいかにリスクの高い行為か、お分かりいただけたのではないでしょうか?
治療法と薬剤
まず、水虫・たむしといった白癬を自身で疑ったら、医療機関への受診を強くお勧めします。
プロの医師が、あなたにあった診断、処方をしてくれるためです。
基本的には医師の裁量であなたの治療法、薬剤が決定されます。抗真菌薬が多く処方される対象となるかと思います。薬剤の剤型としましては、クリーム剤、液剤、スプレー剤、軟膏剤などが日本では認可されており、保険償還の対象となります。また、たむし(体部白癬)の場合ですと、ステロイド剤が処方されるケースもあります。また、症状によっては抗真菌剤の内服薬が処方される場合もあります。他には注射剤もありますが、水虫・たむしの場合に注射剤での治療は一般的に行われません。
上記にお示しした抗真菌剤はいずれも皮膚の最外層に寄生している菌に対して直接効果のあるものです。それぞれ役割が違うので、あなたの症状に適した剤型の薬剤を医師が処方してくれます。
例えばクリーム剤ですと、足の指の間の白癬や水泡ができ、ぐじゅぐじゅしている白癬、足の裏の厚く角化した白癬に適しています。一方、液剤に関しては、水泡つぶれていない、かさかさした白癬に適しています。また、スプレー剤ですと、広範囲に広がってしまっている白癬に適していると言えます。
ぜひ、医療機関を受診し、あなたに適した薬剤を処方いただいてください。
私のように、何年も悩むぐらいなら、早めに治療を開始した方が絶対にいいです。私は、恥ずかしながら。実は先月やっと医療機関を受診し、処方された軟膏を症状が治まった今でも塗布しています。素人判断は危険です。医師の指示に従って、私は1か月強、塗布する予定です。何と言っても私の主症状であった、痒みが引くと、普通に嬉しいですね。
対処法
水虫・たむしを繰り返さないために以下のことに気をつけましょう。当たり前かと思うかもしれませんが、大切なことなので復習の意味も込めて以下にお示しいたします。
・皮膚の症状がなくなっても、処方された薬剤は最低でも1か月、状態によっては医師に相談したうえで数か月塗り続けて下さい。
・薬剤は、患部の周囲まで、広く塗布してください。厚塗りではなく、薄く塗布しても効果はあります。
・毎日石けんで患部をよく洗い、清潔を保ちましょう。
・日常的に、できるだけ患部が蒸れないように生活を心がけましょう。
・ご家族に同様の症状の方がおられましたら、医療機関を受診して、適切な治療を受けましょう。
※基本的に薬剤の使いまわしは推奨されておりません。個別に受診しましょう。
これらの対処法がなぜ必要かと申しますと、白癬菌はしぶとく、すぐに死滅しないからです。
あなたが「治った!」と自己判断しても、それは単に菌が活動を休止しているだけであり、水虫(足白癬)の場合は皮膚の角質層が比較的厚いため、皮膚の中に菌が潜んで休止していることが多いからです。
日常生活で室内などに発生する「カビ」を想像すると分かりやすいかもしれません。カビってしつこくて何度も発生し、なかなか死滅しないですよね。
自分で対処できることは、難しいことではありませんので、ぜひご参考になさってください。
まとめ
水虫・たむしは決して他人ごとではありません。もしあなたがすでに感染しているのであれば、この気持ちはよくお分かりいただけるかと思います。
もしあなたが保菌者だったら、感染し発症したら、あなたさえ治ればよいという問題にとどまらないのです。
大切なご家族や友人、見ず知らずの方に、悪気なしに感染させるリスクがあるのです。
私は数年間、自己判断で結果的に放置してしまっていた典型的な水虫患者です。これまでに誰かに感染させてしまっていたかもしれません。それすらも結局は分からないのです。
しかしみなさんの中でも、私のような「なんとなく放置」している水虫患者、保菌者はおられるのではないでしょうか。私はみなさんに、私と同じ経験をしてもらいたくはありません。
前述した通り、通常は症状として現れません。保菌している状態では気づきようがないのです。
梅雨の時期は、症状の最も出やすい季節となります。もしあなたがそれらしい症状(水虫の自覚症状に限らず、たむしで見られる皮膚の変化も含めて)にお気づきになられたら、ぜひ専門の医師に診てもらってください。
そういった意味においては、今の時期は水虫・たむしに気づくチャンスとも言えます。
あなたは一日どれだけ人や物質と接触機会があるか、お考えになったことはありますか?おそらく数え切れないのではないでしょうか。そのあらゆるタイミングで、もしかしたら誰かに感染しているかもしれません。
もしくは菌をもらっているかもしれません。
一日でも早く、診断、治療を受けることが、感染拡大と感染予防に大きく寄与すると思っています。
さらに、対処法として書かせていただいていた項目は、保菌者にはもちろん、清潔を保つという側面においては非保菌者にも同様のことが言えると私は考えています。
コロナウイルスは感染症です。世界中の人々が「接触」に対して非常に敏感になっていますよね。
水虫・たむしも同様に、原因や症状は違うとはいえ、感染症なのです。症状が一過性だから、致死的じゃないから、などと簡単に考えておられる方がいらっしゃいましたら、今すぐその考えは捨てるべきだと私は思います。
あなたは水虫・たむしを放置していませんか?自己判断で薬を塗ったりやめたりしていませんか?
あなたの周りに水虫・たむしの方はおられませんか?
今一度、この時期だからこそ、よく考えてみてください。
水虫・たむしに感染しないこと、感染させないことが最も肝要だとお気づきになるはずです。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。